【短編集】闇に潜む影
「参ったなぁ」
とある検察庁の取り調べ室で、一人の検事が大きなため息を吐いた。
その隣に座る事務官は、パソコンから顔を上げる。
「どうされたのですか?」
難しい顔をして、その検事は呟くのだった。
「いやさぁ、・・・簡易鑑定にかけてみたんだよね、例の少年」
「あぁ。あの少年ですね」
検事の渋い顔の原因は、その右手に持った紙にあった。
左手で頭を掻きながら、その紙を事務官に手渡す。
それを見る事務官の顔も、同じように曇る。
「犯行当時、心神喪失、だって」
「あぁ。・・・何か、納得です」
事務官は検事の机の上に、その紙を戻した。
「まぁね。一応これから正式の鑑定する予定だけど、
・・・あの調子じゃあ、起訴は難しいだろうね」
検事は立ち上がり、ブラインドのかかった窓のそばに立った。
ズボンのポケットに両手を入れたまま、差し込む太陽の光を背に、
大きなため息をこぼした。