【短編集】闇に潜む影
「『楽園に彼女を連れ戻すために、蛇を退治しただけだ』
って供述しているからなぁ。
・・・家から持ち出した包丁は、『正義の剣』、だっけ?」
肩をすくめながら、検事は再び自分の席へ戻り、分厚い記録を両手に抱える。
そして、もう一度、
自分の担当する事件の被疑者の供述調書の箇所を開くのだった。
「『愛し合う二人によって作り出された美しい楽園、そこに永遠に住まう権利を、
僕らは運命によってもたらされた』・・・。
文学的と言えば文学的だけど。
・・・被害者の彼女をストーカーしていたっていう供述も、
被害者の彼女から出ているからなぁ。
『放課後1,2回一緒に帰ろうと誘われ、
映画にどうしても付き合ってほしいと言われ、それを断りきれずに行ったら、
それ以来付きまといが激しくなっていった、かぁ。
だって、携帯メールだって教えてないのに、いつの間にか知られていたって。
まったく、どうなっているんだか」
「学校でも1,2位を争うほどの成績優秀な学生。
だけど誰ともほとんど会話もしないし、
何を考えているかさっぱり分からなかったそうですね。
・・・週刊誌が飛びつきそうなネタですけど、
どうして今回あまり騒動になっていないんですかね?」
首をひねる事務官に、
検事が、
今日で何度目になるか分からないほどのため息をついて、答えるのだった。