【短編集】闇に潜む影
「父親がマスコミに金をばら撒いているからだろ」
「え?」
「父親の名前と職業。ちゃんと見ないとだめだよ」
検事が膨大な記録の中で、たった数枚の供述調書の頁を開く。
そして、ある個所を指さした。
「父親はあの、女性スキャンダルでは有名な××議員だ。
金なんて腐るほど持っているだろうからね」
「あぁ、なるほど・・・」
検事は右手で頭を思い切り掻きむしった。
どうにもすることのできない事実を、もみくちゃにするかのように。
「被害者を泣き寝入りさせたくなんてないんだけどな・・・」
検事は大きく肩を落とし、記録のあるページを見つめていた。
その瞳は、目の前に立ちはだかる壁の向こうを見るかのように、遠かった。