夏に溺れかけた恋

フミヨ「すごい、古いクルマね。動くの、これ

フミヨ「すごい、古いクルマね。動くの、これ。」
(バタン ドアを閉める音)
注釈(フミヨは、栗矢が乗ってきた大昔の中古車を見て、不思議そうに室内を見回して言った。フミヨが持っていた紙袋から、子猫の鳴き声が聞えていた。)
「ミャーミャー」(ガサガサ、ゴソゴソ)
(ブオーン、ブオーン)
栗矢「何の声?それがあの子猫?行き先の道を教えてくれるかなぁ」
フミヨ「この道をまっすぐ行って、先の大きな信号を左折して、そのまま走って。オーよしよし、小春おとなしくして。あら、吐いたのかしら、大丈夫かな。」
栗矢「あの信号だね。子猫が食べた物を戻したの?まだ走り出したばっかりなのに、車に酔ったかなぁ」
フミヨ「オ-、よちよち少し我慢してねぇ、1時間くらいだからねぇ」
栗矢「おい、1時間ってどこだよ!行き先はえらく遠いのか?」
フミヨ「そこ!信号をヒダリよ!」
栗矢「おぅ、そうだった。」
ナレーション「二人が乗った車は、となり町にあるフミヨの実家の、母親が経営する喫茶店兼グリルの店に向かっていた。」
栗矢「まだかぁ、もう随分走ったぞ。」
フミヨ「すぐよ、もう見えているもん。」
栗矢「どこだい。」
フミヨ「コーヒーの看板があるでしょう。」
注釈(フミヨは、前方に見える喫茶店を指差した。クルマは店の手前の脇道に入ると、すぐに止まった。フミヨはクルマから降りて、栗矢に一言言い残すと、喫茶店のすぐ裏手にある、一軒の住宅に入って行った。)
フミヨ「ねぇ、そこの喫茶店で待ってくれない、コーヒーおごるからさ。」
注釈(栗矢は、黙って喫茶店の駐車場に車を入れて、店のドアを押してコーヒーを注文した。店の奥から若い女性の声と中年女性の声が聞える。)
若い女「これお願い、電話していた件。」


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