夏に溺れかけた恋
『7月、3回の偶然な出会い』

ナレーション「それは、7月の暑い日曜日に

ナレーション「それは、7月の暑い日曜日に海で出会った、ごくありふれた男と女の、恋の出来事だった。」
注釈(ある路地裏から、場面は始まる。)
(ミーンミーンミーン)蝉の声
室田タダユキ「おい、暑いな!」
栗矢ヒロヨシ「たまらんな!」
室田「海に行こうか、行くぞ!」
注釈(二人は、白い自動車に乗り込む。)
ナレーション「7月上旬に、二人は海水浴に出かける。一人は栗矢ヒロヨシ、運転しているもう一人は室田タダユキ、青春というには奥手の23歳の若者だ。」
注釈(二人は真っ白なライトバンに乗って海へと向かっている。)
栗矢「暑いなぁ、この車にはクーラーが付いて無いのか?」
室田「仕事用だ!贅沢いうな!会社も大変なのだ。」
ナレーション「40分程かかる道のりを、冷房なしのライトバンで疾走する。クルマは室田が勤め先で使用している業務用車で、翌日は遠方の仕事なので直行すると、理由を付けては乗って帰ってくる。」
注釈(海岸通りにでると、車の数はぐっと減るので、室田はアクセルペダルを強く踏み込み、栗矢が風を入れようと、窓から腕を出した。)
栗矢「いい風だ、車は走って車だな。」
室田「当たり前の事を、何を言っている。」
栗矢「もうすぐだな、久しぶりに泳ぐぞ!」
注釈(白いライトバンは、海岸横の松林の中に止まった。二人は勢いよく飛び出し、砂浜に向かって走り出した。)
室田「ここの海は初めてだろう」
栗矢「ああ、このところ海なんて来てなかったからなぁ。」
注釈(砂浜で服を脱ぐと、二人は波打ち際の浜に駆け出した。)
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