夏に溺れかけた恋

注釈(室田は岩場の上から栗矢の方を見て

注釈(室田は岩場の上から栗矢の方を見て、ブイとは反対側の波打ち際に下りて、手探りで海草を摘みだした。)
栗矢「ウッ、もうすぐだ!」
ナレーション「栗矢がやっとブイに近づき、右手を伸ばした途端に、球体のブイは波の上でクルリと回転して、その手から離れてしまった。思わぬ事態に、彼は海中に押し込められ、したかに海水を飲んでしまった。 慌ててもがくと、尚さら水中に引き込まれる。その事を、栗矢は知っていた。まず水中深く潜ってブイを海の底から見あげて、そのまま上に向かって浮上すると、ブイは楽につかまえられた。」
栗矢「フーハーハー」
注釈(栗矢はブイにつかまって、乱れた呼吸を整えると、平ら泳ぎで岩場の方に泳ぎ出した。)
栗矢「何か見つけたのか?」
室田「ワカメかな、今晩のおかずは海草だ」
注釈(栗矢が、岩場の上から室田の方を見ていると、先ほどのブイの方から若い女性の声が聞えた。)
戸永フミヨ「マナ‐、早く来なさいよ!」
黒木マナミ「フミが、早すぎるのよ!」
フミヨ「もう少し!」(戸永フミヨ)
ナレーション「先に泳いでいる女性が戸永フミヨで、遅れているのが黒木マナミだ。フミヨは一気にブイをつかまえようとしたが、栗矢と同じようにブイに弾かれて、海中に沈んでしまった。彼女は、したたかに海水を飲んでしまって、再び水面に顔を出した時にはバタバタともがき苦しみ、パニックになってしまった。」
フミヨ「キャッ」(ドボン)「プッアッハーハー」(バタバタ)
注釈(彼女は何度も、ブイにチャレンジをしたが、やはり没してしまった。その内に、フミヨの表情は溺れそうになっていた。栗矢はその様子を見て、すかさず岩礁の上から飛び込んだ。)
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