夏に溺れかけた恋

注釈(場面が変わり、まだ朝が明けない頃、

注釈(場面が変わり、まだ朝が明けない頃、けたたましい救急車のサイレンの音と、赤い回転灯が近くの家の壁に反射している。救急車は喫茶店の看板の前で止まると、中年女性の悲痛な声と、それとは打って変わって規律のとれた救急隊員の冷静かつ迅速な靴音が周囲に響いた。)
フミヨの母「早くお願いします。あなた聞える?聞えないの!あなた!あなた!」
救急隊員A「搬送先の病院と、連絡は取れたか?」
救急退院B「はい、今返事が入いりました。搬送先の病院は確保出来ました。」
救急隊員A「奥さん、一緒に来て頂ますが、ご自宅の方は大丈夫ですか?」
近所の奥さん川越「戸永さん、家の戸締りはした?」
注釈(近所の人が、戸永フミヨの母に声をかけた。留守にする家のようすを、見て貰う話しをしている。)
救急隊員A「さあ出発しよか、奥さん乗ってください。」
フミヨの母「はい、ここからですか?」
救急態員A「足下に気をつけてください。」
注釈(救急車が走り出す。)
ナレーション「フミヨの父が、救急車で運ばれたのは、室田の母が帰った日曜の翌日だった。この事が、二人の運命に深く関わってくるとは、フミヨにはまだ判っていない。」

注釈(場面が変わり病院の中。フミヨの母が病院のロビーから、電話をかけている。)
フミヨの母「だから、先生の話しを聞くのにあんたも来てよ。そう、そう、今朝の夜明け前よ、私一人じゃ心許ないから早く来てちょうだい。うん気を付けてね、それじゃ。」
注釈(電話を切ると、検査室の入り口を見つめた。)
フミヨ「いい!しっかりするのよ!すぐ行くから、それまでがんばって!」
注釈(フミヨは、急いでアパートを出ると、タクシーを止めた。そして病院の玄関に、タクシーが止まり、フミヨがロビーに走って行った。)
注釈(場面が変わる。)
ナレーション「そのころ栗矢は、実家の父高大から届いた手紙を読んでいた。」
高大の手紙「お盆に帰郷したおり、お土産に持ってきたお菓子や果物はおいしく食べました。お前も元気でやっているとの事、何よりです。先日話した、こちらへ戻ってくる件は考えてくれたか、一昨年先代のお祖父さんが逝って襲名の件を後援会の人や親戚からも迫られている。 お前も早く、こちらへ戻って、窯元の仕事を手伝ってほしい。」
栗矢「忙しくなって来たのかな。」

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