Look ON!
人の感情をあまり気に止めない華南でさえ、今日の靖也には一歩退いていた。
自分ですら少しの戸惑いを感じているのに、何処にでもいるような警官に今の靖也とまともに接しろという方が無理なのだ。
ヤツはくじ引きでいう大ハズレだな。と1人納得して、靖也の後を追いかけた。



「靖ちゃんっ!」

後部座席に座ってください、とあけられた扉。
乗りこむ前に運転席からソプラノトーンが響いた。

「お前……っ!」

誰だ。と、言わんばかりに疑問符を浮かべる華南に気付いたのか隣にいた警官が彼女の名前をのべた。
井上 雪乃さんです、と。
パトカーに乗り込もうとしない靖也を華南は軽く小突くが靖也は制止したままだった。

「彼女が噂の水城さぁん? 綺麗な子ねぇー」

ペラペラと喋りだした雪乃は誰にも止められない。
数分間言いたいことだけを一気に喋ったあと、雪乃は「乗ったらぁ?」と悪戯っぽく笑うのだった。

「なぁ、車変えてくれへんか……っつーか運転手を変えてくれらえぇわ」

いきなりの靖也の発言に「えぇっ?」と警官はキョロキョロと辺りを見回す。
そして若干申し訳なさそうに上目遣いで靖也に話しかけた。

「それが……皆もう行 ってしまったみたいで」
「……厄日か今日はっ!」

盛大なため息とともに靖也の声は風に流れていった。



「でぇ、靖ちゃんとの出会いはその日だったわけぇー」

ねぇー。と、雪乃に可愛らしく首を傾げながら見られたところで靖也がドキリと心を震わせるわけでもなく……
「運転中は前向いとけ」と、横目で睨む始末である。
そして靖也は車に乗ってもうすでに何本目か分からない煙草に火をつけた。
「肺ガンになるよぉー?」と再び雪乃がそれは子供のように愛らしく言うのだが靖也は完全に聞こえないフリをした。
いい加減、無視することに決めたらしい。
しかし先刻までの靖也のイラついた感情は一方的な雪乃の会話によりなくっていた。
多少"呆れ"の感情に変化はしていたが……
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