Look ON!
「……お前が時間守ってくれたら済む話やねんけどな」

生憎今日は忙しかったんだ。と、まるで他人事のように軽く言う華南に靖也は呆れていた。
けれど華南が忙しかったのは事実であり、それを良く知っているからこそ否定出来ない。
毎日山のような仕事の量に追われる日々。
それは靖也も華南も変わらなかった。

「で? こないだの調書、てこずってんのか?」
「いや、その後の資料まとめの方」

カタカタと定期的に指を動かす華南の目の前のモニタを覗き込んで靖也は苦笑する。
ズラリと並んだ文字やら図や表に思わず頭が痛くなりそうだった。

「あーまた面倒な仕事任されたもんやな」

俺やったら断るわ、こんなん。と、やや控えめな声で呟きながら中央デスクにいる人物を見る靖也。
そこにはこの組織、「K」の局長である橘 美咲が座っていた。
肩と耳で携帯をはさみ口を動かしながら視線は前のコンピューターへ、そして手はそのキーボードの上をせわしなく動いている姿が靖也の位置から良く見えた。
こうやって見ていればバリバリのキャリアウーマンの様なのだが、実際この橘 美咲という人はそんな簡単な言葉で表せるほど単純な女ではなかった。

「仕方ないだろ、私はまだ新入りなんだから」
「まぁ俺には関係ないけど……はよ終らせよ?」
「出来る限りでやってるつもりだ」

イラつきながら話す華南に靖也は鼻で笑う。
そしてそんな誠也の笑いが華南の機嫌を更に悪くするのである。
いわゆる、悪循環。そしてそれを分かっているのだろうか、この男は……
しかしその一方でデスクの端にあった華南のカップを手に取る靖也。
次の瞬間には「珈琲いれて来たるわ」と給湯室の方に消えていった。

「邪魔しにきたんだか、何なんだか……」

誰に話すわけでもなく華南はそう呟いた。
そして再び目の前のコンピューターに挑む。
こった肩に鈍い痛みを感じながらもキーを打ちはじめた。
_
< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop