Look ON!
何処か他人を馬鹿にしたような靖也の関西弁は好きではない。
けれど隣に居ても不思議と苦にならない……そんな存在だった。
そして、人間不信だった自分がなぜだか、少しくらいなら心を許しても良い……と、そう思えた数少なき人間のうちの一人でもあった。




「アイスで良かった?」
「ホットが良かった」

可愛ないヤツやなぁ……
と、ふて腐れ気味な言葉と共にデスクに置かれた珈琲はもちろんホットである。
そんな単なる靖也の冗談にも華南は"なぜ嘘をつく必要性があるのか"と一人疑問に思っていた。
淹れたての珈琲の良い香りが華南の鼻をくすぐる。

「んんーっ……はぁ……」
「終ったかぁ?」

大きな欠伸を左手でかくし、軽く伸びをした華南に誠也はたずねる。
一気に肩を落として「なんとか」と答えた華南の顔からは少しの疲労の色が見えた。
大分ぬるくなってしまった珈琲を口に運ぶと更にその顔は不機嫌そうに歪む。
全部飲み干す前に華南はカップから口を離したのだった。

「あーぁ。1時間半ロスやで」

間もなく6時半を指そうとしている時計を目にし靖也は立ち上がった。
苛立ちを隠せなかったのか華南が乱暴にカップをデスクに置いたため、ゴンっと鈍い音が鳴る。
隣のデスクに置いてあったコートを手に取ると華南は立ち上がってコートを羽織った。

「悪かったって言っただろ……」
「ほんなら行こかっ」

もう一度自分のデスクに向き合った華南は2段目の引き出しから拳銃を取り出すと、愛用のソレをクルリとまわしてコートの内ポケットに忍ばせる。
そして、デスクの上の両親の写真にそっと触れるだけのキスをしてその場を立ち去った。
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