ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
Lovers in the Dustbox
Memory01 僕たちの羽根
いつからだろう。
彼女の気持ちが解らなくなったのは。
今でも時々思う。
オレンジに染まった夕方の駅のホームに消える彼女の姿と、「またいつか、会えるかな?」そう言った彼女の言葉を。
電車で二時間の距離に住む僕たちは、受話器越しに紡ぐ言葉で、会えない寂しさを薄めていた。
彼女との会話と音楽だけが、退屈な毎日を忘れさせてくれていたんだ。
彼女よりもひとつ年上の僕は、それがあたりまえのように、高校を一年早く卒業する。
「ね、進路決まったん? そろそろ決めないかんのやろ?」
「就職するつもりやったけど……」
「進学するん? 県外?」
「わからん。そこまで決めてない」
彼女に初めての嘘をつく。
本当は決めていた。
東京の音大に進学することを。
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