ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
心配なのは、僕がここに居る間に彼女が何処かに出掛けやしないだろうか、という事。

今彼女と会ってしまったら気まずい。

外も雨だけど、僕の心にも雨。

強く降り注いでるんだ、これが。

ね、『気まずさ』なんてものまで受け止められるほど心にキャパシティは無い訳。

溢れ出てしまうよ。


いっそ雨に濡れるか。

歌でも歌いながら。

いつか見た映画の主人公みたいに。

無理だよな、物語に出来るほどの失恋話でもないんだから。

そもそも、これは失恋なのか、それすら疑問に思えてくる。

思い出すと、かなりスペシャルな一日だったな。

雨が止むまでの間、その話でもするとしようか。


今から六時間程前、街中で彼女を見かけたわけ。

僕の知らない男と一緒に居る彼女をね。

その男と仲良く腕組んで歩いている彼女をね。

それで僕はどうしたのかって? 

逃げたね。

その場から走って逃げたんだ。

笑うなら笑え。
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