ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
一応言い訳するけど、昼休みを終えて仕事に戻る途中だったからね。

彼女よりも仕事かって? 

言ったろ、これは言い訳なんだ。

でもね、「私と仕事とどっちが大事なの?」なんてのはさ、「太陽と地球、どっちが大事?」って言ってるのと同じだと思うよ。

どっちが太陽でどっちが地球かって? 

そういうことじゃないんだよ。

まあ、そんな時は無言で抱きしめてキスのひとつでもするのが大人の男って奴かもしれないけどね。


それから悶々としながらもなんとか仕事を終えた僕は彼女のマンションにやって来たのさ。

彼女と約束してたからね。

約束した時間よりも三十分程早かったけど。

そのせいで、また見てしまったわけ。

彼女のマンションから昼間見た男が出て来るのを。

別れ際にキスまでしてたんだ。


それで僕はどうしたのかって? 

隠れたね。

都合よくその場所に駐車してくれていた柿色の小さな車の陰に隠れたんだ。

ちょうどその時通りかかった、帰宅途中だと思われる女子高生達が僕を見て笑ってたよ。

でも、もしかしたら僕ではなく、あの柿色の車を見て笑っていたのかも。

そう願いたいね。
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