ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
「何処に行くの?」上着を着ようとする僕を見て彼女が言った。


「煙草切れたから」そう答えたのだが、彼女は「あたしも行く」と言って立ち上がり、自分も上着を着ようとする。


「その顔で外に出るつもり?」僕がそう言うと、彼女は僕の上着を持ってバスルームへと向かった。

人質のつもりなのだろう。


自販機で煙草を買ってから、近くの公園へ向かった。

公園の奥のベンチに並んで座る。

僕がいつもよりも、ほんの五センチだけ彼女から離れて座ったことに、彼女は気づいていただろうか?


僕は何も喋らなかった。煙草も吸わなかった。

五センチの隙間を、冷たい風が通り抜けて行く。


やがて彼女は「別れたくない」と二度繰り返した。


僕は立ち上がると駅の方向へと歩き出す。

僕を追いかけて来た彼女は、隣に並ぶと何も言わず僕の手を強く握った。
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