ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
彼女の部屋で飲み始めると、今まで僕に見せたことのないペースで彼女はビールを飲み続けた。


「知らんかったんや。結婚が決まってるってこと」


彼が結婚してからも関係が続いてしまったのだ、と彼女は僕に話した。


「好きと違うんやったら優しくせんといて欲しいわ」


「それは女にも言いたいです」


「ああぁ?!」


「いや、怒られても」


「女はな、自分にだけ優しくして欲しいと思ってるんやで。好きな女にだけ優しくするべきや。君もやで!」


「でも、冷たくするわけにもと思うけど……」


「どうしても他の女にも優しくせないかんのやったらな、好きな女には、その三倍優しくしい」


そう言ってから彼女はとうとうテーブルの上にうつ伏せて眠ってしまった。


ああ、そうか、と思う。

彼女は、弱い自分を隠す為に強がってみせているんだ。

煙草で、酒で、化粧で、口の悪さで。

嘘を纏って自分を守っている。

そうしないと、ひび割れた壁が剥がれ落ちていくみたいに、ボロボロと崩れてしまうから。


少しだけ、この女性は僕に似ていると思った。
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