ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
「合格おめでとう」

「ありがとう」

「お別れやな。でも、泣かへんよ。こんなときにな、笑える女を目指してるねん」


せつなかったけど、悲しくはなかった気がする。

僕たちは、この日の為に準備をしてきていたのだから。

さよなら、を言う、その為の準備。


朝、天気予報を見て折畳み傘をカバンに入れるように。

雨に濡れないように。

風邪を引かないように。

それが当然のように。


「またいつか、会えるかな?」


「会おうと思えば、会えるよ」


「いつ? 何年後とか約束しとく?」


「そやなぁ……、五年後?」


「楽しみや」


何となく五年後と言った僕に、手を振りながら反対側のホームに向かう彼女を見て、思う。

僕が逃がした、あのインコはどうなったのだろう。

また会おう、と約束していれば、僕の元へと戻ってきただろうか。


そして、思い出す。

本当は僕も一緒に空へ飛んで行きたかったのだ、と。
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