内緒の恋心
‥いやいや。
あれは反則だ。
長袖の袖を肘まで捲り、手首には黒い時計。
腕から指先までのラインが‥‥素敵。
形、太さ、長さどれをとっても私の好みのど真ん中!
以前は腕時計は当たり前だったけれど、携帯が普及して、主婦になってから時計をしている男の人を見るのは久しぶりだった。
きっと注意してみていれば時計をしている人は結構いるのだろう。
けれど子育てに追われている私には気に止まるところではなかったのだ。
‥いやいや。
私は面食いだ。
きっと普通の顔の人に違いない。
そう思い、その男性の顔を見ると‥‥イケメンじゃん。
黒縁メガネの似合う、かっこいいとも可愛いともいえるような顔立ち。
そして、あの手。
卑怯じゃないか!!
内心いろいろチェックしながら、子供にも注意を払っていた。
「ママ〜‥‥こり〜」
隣でおとなしくしている息子をみると、一生懸命アルミホイルを剥がしていたのだ。
息子の手にはなんとか剥がすことのできたアルミホイル。
「ちょっとまって」
カバンから小さなナイロン袋を取り出すと、
「ここに、ごみを入れようね」
と、息子に差し出した。
「‥‥‥」
息子は何か考えながら、なぜかお菓子を袋の中に入れようとする。
私をはそれを見ながら
「えっ、そっち入れちゃうの?」
と、突っ込むと、少しの間考えてから
「こっち〜」
慌ててアルミホイルを袋に入れた。
それを微笑みながら見ていて、
「そうだね〜、お菓子入れたら食べられなもんね〜」
と、袋をしまおうとして、思わず彼を見てしまった。
おおおおおぅ。
なぜか彼はこちらを見て、優しく微笑んでいた。
ああう。
何?なになに?
ドキドキして思わず視線をそらしてしまう。
そして内心ドキドキなのだけれど、何事もなかったように袋をカバンに入れた。