この世界は残酷なほど美しい
頭の中にある記憶が甦る。
それは母さんが入院して間もない頃だった。
僕は病室のドアから母さんを見つめていた。
恥ずかしくて何だか中には入れないでいた僕を母さんが呼んでくれた。
「流星、こっちにおいで」
「お母さん、大丈夫?」
顔色の悪かった母さんに僕はこう聞いてしまった。
すると母さんはいつもと変わらない笑顔で僕にこう言った。
「大丈夫よ?ママね、強いの。パパと流星を残して居なくなったりしないから」
でも母さんは居なくなった。
僕はそんな母さんを嘘つきだと思った。
だけどこの時…
母さんは本当は大丈夫じゃなかったとしたら。
嘘を言った母さんを責め立てるなんてできない。
僕がこんなことを聞かなければ。
そうしたら母さんはずっとずっと僕と父さんから離れないでいたかもしれない。
僕があんなことを聞いたから。
「大丈夫?」なんて聞いたから。
気付いたとき、僕の目から涙が零れていた。