この世界は残酷なほど美しい
「流星…?」
莉子の声でハッと我に返る。
慌てて流れる涙を制服の袖で拭いて。
「ごめんっ!なんか勝手に…流れてて…!」
莉子は僕の顔を覗き込み、ゆっくりと笑顔を見せた。
そして小さな体で僕を、優しく…母さんと同じ温もりで、包み込んだ。
「流星、泣きたいときに泣けるなんてそんな素晴らしいことって無いんだよ。流星を産んでくれたお母さんに感謝しなくちゃね」
伝わってくる莉子の体温。
制服が邪魔をして本当の温もりは感じられないが、制服が無かったらもっと温かいのだろうなと思った。
顎の辺りに丁度莉子の頭がある。
そこから香るシャンプーの匂いが思春期の僕の理性をおかしくしていく。
気がついたら手が勝手に莉子を抱きしめようとした。
だけど莉子には好きな人がいる。
頭の中にそう警告が発信された。
僕は何も出来ない。
一生懸命好きな人を好きでいる莉子を無理矢理奪ったりなんかできない。
僕は、莉子に溺れていた。
もう遅かった。
僕は莉子が好きだ。