この世界は残酷なほど美しい
静まる保健室に響くのは低いトーンボイスの蓮の声だった。
「え……?」
「そう。俺が浮気したのは事実。奈緒子の気持ちが分からなくてさ。悪いのは俺だよ。奈緒子のせいじゃない」
野中は絆創膏を傷口に貼り、僕を見る。
受験のためか野中の髪の毛の色が黒に落ち着いていた。
昔はチャラチャラしたイメージだったけれど今は好青年だ。
今の野中の方が魅力的だった。
「こんなことあんまり言いたくないけど、奈緒子はずっと流星が好きだったんだ。だから奈緒子の気持ちを踏みにじるようなことはしないで欲しい。じゃあな」
野中は立ち上がりオキシドールを救急箱に戻した。
そして保健室から出ていく。
パタンと閉じたドアの音を聞いた瞬間、ゆっくりと息を吐いて。
野中の話を聞いていたら呼吸が上手く出来なくて苦しかったのだ。
「何か複雑だなぁ。奈緒子の気持ちが全然わかんねぇわ。俺も花音迎えに行こうかな。流星、明日はちゃんと授業にでろよ。じゃあな」
蓮も野中に続き保健室を後にした。