この世界は残酷なほど美しい
目の前には僕の顔を見て笑う奈緒子がいた。
僕は奈緒子からカバンを受け取る。
「帰ろっか。雨降りそうだし」
「うん。そうだね」
肌で感じる。
もうすぐ梅雨が来る。
そして母さんの命日もやってくる。
母さんの命日は7月7日の七夕だった。
病院で行われた七夕祭の短冊に僕はこう書いた。
“お母さんが早く退院しますように”
幼い僕は小さな望みを抱えていた。
だけどそれを神様は見てくれなかった。
違う、僕が願い事をし過ぎたのだ。
神様は一つしか叶えてはくれない。
欲張ったのは僕の方だった。
「あのさ、奈緒子。今朝のことだけど…奈緒子は『ざまあみろ』って思ってる?僕が落ち込んでるのを見て」
太陽のないグラウンドはどこか気持ち悪かった。
僕の進むべき道を教えてはくれない。
信じるのは自分のみ、ということだろうか。
隣にいた奈緒子は「ふふっ」と笑った。
「そんなこと思うわけないよ。ざまあみろだなんて。でもちょっとだけホッとしてる」