この世界は残酷なほど美しい
通い慣れた道を歩いていると、前方に親子が歩いていた。
お母さんと手を繋ぎ、男の子は空を眺めている。
僕は何も考えずにただそれを見つめていた。
視界に写っただけだ。
何の感情も芽生えてこない。
「ママー、今日はお星さま見えないねー」
「そうね。恥ずかしいのかもね」
「ぼくのお願い叶えてくれるかなぁ…」
どくん、と胸が痛くなった。
そして血液が全身に流れ込み次第に体を熱くさせた。
忘れかけていた記憶が今…
ゆっくりと頭の中を駆け巡っていく。
父さんが言っていた言葉。
「流星、あの時の願い事は叶ったか?」
僕の背中に冷たく突き刺さった言葉の意味を思い出したのだ。
そうだ…僕はあの時願い事をした。
母さんの病気の屋上で。
それは母さんのいなくなる少し前のことだった。
その日、七夕祭を終えた僕と父さんは帰る支度をし、病気から出ようとした。
右手は父さんと繋がっていて空いた左手には短冊を握りしめていた。
短冊には
「お母さんが早く退院しますように」と汚い文字が並んでいた。