この世界は残酷なほど美しい
夕暮れ時、僕は父さんに質問をした。
「願い事は一つしかしちゃダメなの?」
そう聞くと父さんは僕を見て優しく笑った。
「そんなことないよ。その短冊は神様に向けて願ったんだ。だから次はお星さまに願い事をすればいいんだよ」
「神様とお星さま、ケンカしない?」
「しないよ。神様とお星さまは仲良しさんだから」
父さんの話を聞いて安心した僕は、願い事をしたいと言い父さんと屋上に行ったのだ。
そしてキラキラと光る幾つもの星に向かって願い事をしたんだ。
その願いとは…
思い出せ…思い出すんだ。
ぎゅっと目を閉じて8歳の自分の記憶を遡っていく。
あの時、僕は―…
ある願い事をしていた。
「お星さま、どうかあの子とまた逢えますように―…」
僕が父さんの隣で願ったこと。それは未来に繋がる願い事だったんだ。
忘れていた記憶はこれだけでは無かった。
だけどほんの少しだけ何かが分かった気がした。
僕は止まっていた足を動かしてマンションに向かう。
母さんは僕に一体何を残してくれたのだろう。
母さん、見てるんでしょう?
恥ずかしがってないで父さんと僕の前に姿を現してよ。