この世界は残酷なほど美しい
そのメモ書きを見て僕は思った。
そうだ、父さんは自由な人間だった。
仕事で家を空けるのは日常茶飯事だったし、僕に関心がないのは昔からだった。
きっと僕のせいだ。
父さんとこんな関係になってしまったのは。
父さんという人間を拒絶していた。
運動会、文化祭、授業参観、保護者会、そういった行事を僕は知らした覚えがない。
どうしても両親が必要なときは爺ちゃんに頼んでいた。
父さんと同じ空間にいるのがどうしても嫌で、知らないうちに親子の絆は失われていたのだ。
10年経った今さら気づくなんて。
誰か僕を殴ってよ。
そうしたら痛さを理由に思い切り泣くから。
僕はポケットの携帯を取り出し、父さんのメモリを探す。
一応何かのために父さんの携帯番号だけは知っていた。
だけど掛けたことなど一度もなくて、液晶に映し出されたその文字たちはどこか泣いているように見えた。