この世界は残酷なほど美しい
奈緒子を抱きしめながら目を閉じて大きく息を吸う。
夏の何処と無く湿っぽく、でもカラッとした空気だった。
でもそれ以上に奈緒子から香る女の子の匂いが鼻を刺激する。
その匂いが僕の心の奥深くをとくんと揺るがせた。
「……母さんに逢いに行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい。私は…帰るね。また明日学校でね」
奈緒子は僕の体を離して、一歩ずつ離れていった。
手を振りながら病院の屋上から去っていく。
一人ぽつんと屋上に残された僕はベンチに座り、視線を日記へと移す。
それをゆっくりと撫でると空に散らばる星がキラリと輝いた気がした。
母さんは最後、僕に「寂しい」と小さく呟いた。
僕は何も言わずただ母さんを見つめていた。
寂しい、言葉の意味の中に何が込められていたのだろう。
この日記を見てしまったらもしかしたら母さんが消えて無くなるんじゃないかって不安になる。
だけど、僕は。
深呼吸をしてゆっくりとノートを開いていく。
一ページ目には…
“私はあなたのためにずっと生きていく”