この世界は残酷なほど美しい


母さんがいなくなって今日で10年目を迎える。


母さんの命日は必ずお墓参りに行っていた。
だけど父さんとは行ったことがない。
母さんが死んだ日から親子という絆は失ってしまったから。

だから僕はじいちゃんたちと一緒に行っていた。

でも今年は違う。


余裕の無かった僕の心に、少しだけ…ほんの少しだけ余裕ができた。
僕自身驚いている。
僕は永遠に独りだと思っていたから。


電車を乗り継いである場所に向かう。
それは限りなく海に近い場所だった。
なぜ父さんがこの場所を選んだのかは分からない。
ほら、意外と父さんは秘密主義だから。


だけどこの場所を嫌いになんかなれなかった。
妙に落ち着くそこは、過去の記憶の中に微かに残っていたから。

はっきりではない。
本当に微かな程度。




駅から降りると遠くの方で海の潮っぽい匂いが鼻の粘膜を刺激した。



「くしゅん!」



やっぱり、くしゃみ出ると思ったんだ。




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