この世界は残酷なほど美しい
頼むから、逝かないで。
そう願って日々過ごしてきた。潮風に体を預けるとあの日の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
「雅…」
キミに名前を呼ばれると胸がトクンと疼く。
俺の目の前で笑うキミに向かってカメラを向けた。
シャッター音が波音に寄って掻き消された。
当然キミは写真を撮られたことに気付いていない。
「美羽、転ぶなよ」
誓ったんだ。
自分に向かって笑ってくれる人のために写真を撮るって。
一眼レフの裏側に名前が刻まれている。
それはこのカメラの持ち主の名前だ。
“SUZUKI YU”
俺のじいちゃんの名前。
じいちゃんは少し前に死んでしまった。
でも悲しくなんか無かった。
じいちゃんの新しい人生がスタートしたのだと思ったから。
そして俺はここで新たな命と出逢う。
「雅…あのね」
浜辺に残る足跡は、波がゆっくりと拐っていく。