この世界は残酷なほど美しい
夕陽があたる横顔はとても美しかった。
長い髪の毛を耳に掛けて文句一つ溢さずにただ拾っていた。
「…あの、落としましたよ」
僕は当たり前のように拾った物を彼女に返す。
すると彼女は僕の方を見て呟いた。
「あなたが初めて。」
「…え??」
なに…何だよ、いきなり。
初めてって何が。
やはり彼女は美しかった。
色白の肌に大きな瞳、そして真っ赤な唇。
童話から飛び出たお姫様のようだった。
「あたしね、試してたの。日本にはどれだけ優しい人がいるかって。もう三日間も試したわ。だけど誰一人助けてくれる人がいなかった。昨日までね。でも今日は違った。あなたが助けてくれたから」
「…もしかして三日も物を落としてたの?」
「えぇ、あたし自分の目で確かめないと気が済まないタイプなの。拾ってくれてありがとう」
彼女は僕から文庫本を取り、それを鞄の中にしまった。
僕の頭の中は思考停止ボタンが点滅している。
初めて出逢って人種だ。
口をポカンと開けて彼女を見つめる。
「あなたは優しいわね。あたしのお遊びに付き合ってくれてありがとう。あなたが助けてくれなかったら一生やり続けるとこだった、じゃあね」
彼女は僕の前から去っていく。甘いキャンディーの香りだけを残して。