この世界は残酷なほど美しい
家に着いた僕は手慣れたようにエレベーターに乗り込み自分の家を目指した。
鍵を開けて家に入る。
「ただいま、チョコ」
チョコとは熱帯魚の名前。
一匹しない熱帯魚は寂しそうだけど優雅に泳いでいた。
青いライトで演出された水槽に僕も入ってみたい。
小さい頃からのちょっとした願望。
廊下を進んで、僕はある部屋に向かう。
そこは母さんの眠る場所。
出掛けるときと帰ってきたときは必ず仏壇に手を合わせる。
だけど今日は先約がいた。
ドアを開けるとそこには大きなキャリーバックを持った父さんがいた。
「…流星か?おかえり」
優しい笑顔で父さんは僕にこう言った。
ここから早く出ていけよ。
父さんがここにいられる資格なんてないんだ。
母さんを一人にしたのは父さんなのに。
母さんの部屋に入ると僕は8歳に戻ってしまう。
なぜならば僕はあの時から何も成長していなかったから。