この世界は残酷なほど美しい
中庭に行くと背中を丸めてベンチに座ってる花音がいた。
そんな花音を見たのは初めてで…どう声を掛けていいのか分からなかった。
僕は花音の前にしゃがみこみ、顔を覗いた。
花音の瞳からは涙が零れていた。
それを見た瞬間、蓮に対する怒りが込み上げる。
「花音…大丈夫?」
そっと震える手を握ると花音の手はあまりにも冷たかった。
「………大丈夫……」
鼻をすすりながら花音は静かに言う。
大丈夫と言いながら涙のスピードは速くなる。
僕はさらに握る手を強くした。そうしたら花音は一人じゃないと思ってくれるかなって思ったから。
「…流星、私どうしたらいいの?蓮のこと…こんなにも好きなのに……」
ぽたりと手に落ちる滴。
それは屈託などなく透明で―…。
まだ半人前の僕には花音を抱き締めてあげることも慰めてあげることも、できずにいた。
「花音…蓮のことは僕がちゃんと聞くから…泣かないでよ…」
僕は人の涙が好きじゃない。
僕まで悲しくなるから。
だから泣かないで欲しい。
でも僕には誰かの涙を拭いてあげられるほどの力は無かった。
初めての感情。
芽生え始める気持ち。
そしてゆっくりと運命は動いていった。