この世界は残酷なほど美しい


踏まれたせいか、身動きが取れなくなる僕。
唾を飲み、踏まれた影を見た。



「何で答えなきゃいけないの?正直僕にも分からないよ。自分が誰か好きなのか。好きになったこともないのに、それに莉子を好きになる理由がない」




すると奈緒子は僕に一歩近寄り、何も言わずただ僕を見上げた。
そして涙の溜まった瞳から一粒の涙が頬に線を描く。



「好きになる理由なんて要らないんだよ?これ、返すね。」




好きになる理由は要らない。
それは僕の心をえぐった。
奈緒子は僕が落とした星形の折り紙を僕に差し出し、屋上のドアを引く。
キィーと嫌な音が響き渡った。



「奈緒子…大丈夫?」




「大丈夫じゃなかったら涙なんか流れないよ」




震える声で奈緒子はそう言い屋上から姿を消した。
アスファルトに視線を落とすとそこには救いようのない人間が一人。


それは紛れもなく…



僕だった。




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