甘い涙
 ━あまり近付かないで欲しい。
 心臓の音が、シーンと静まり返った図書室中響き渡っているのではないかと、思える程なのだ。
 ━そうじゃなくて…何だっけ…。
 ━落ち着け…。
 「元気になったみたいで…良かった。」
 ━そう、お礼言うんだった。
 杉崎くんの言葉で、本来の目的を思い出し
 「保健室まで、運んでくれて、ありがとう。」
 俯いたまま、早口にそれだけ言えた。
 杉崎くんの両腕がフワリと私を包み込んだ。
    ━?…?
 何が起きたのか?
 私は訳が分からなかった。
 「俺、ずっとめいが好きだった。
   ━愛してる。」
 耳元で杉崎くんにささやかれた。
  ━い、意味わかんない。
 今まで誰にも言われた事のない言葉。
 しかも、それが、あの、杉崎くんから私に言うはずのない言葉。
 私の体、総て壊れたんじゃないかと思った。
 心臓はありえない程早いし、目まいはするし、おまけに耳までおかしくなった?
 杉崎くんはもう一度
 「愛してる…。」
 とささやくと、マネキンの様に固まっている私に、優しくキスをした。

 私は、どこをどう帰ったのかも分からなかった。
 気付いたら、ちゃんと自分の家の居間で、カバンを持ったまま、灯りも点けず、ただボーッと座り込んでいた。
 図書室での事を考え出すと、所かまわず叫び出したくなっちゃうし、ジタバタしたくなっちゃうし、じっとしていられなくなってしまうのだ。
 そして最後には、何で私なんだろうと不思議に思ってしまうのだ。
 ━杉崎くんなら、どんな美女も、どんなに可愛い子も選び放題だろうに…。
 そんな挙動不審な私を、ももは遠巻きにして見ているのだった。


< 23 / 51 >

この作品をシェア

pagetop