甘い涙

……ィ。……ィ。
 近くで、微かな鳴き声が聞こえた。
 見回してみても、辺りは雨の音がするばかり。
 ━気のせいか━。
 歩き出そうとすると…。
  …ミィ。 …ミィ。
 さっきより大きく聞こえた。
 ━猫の声だ。
  どこに居るんだろう━。
 声の見当を付け、しゃがんでみる。
 歩道のサツキの下、舌をならし呼ぶ。
 ━と、小さな白い綿毛が、ピョコピョコ私に向かって転がってきた。
 それは、片手に乗る程小さな仔猫だった。 
 全身真っ白なのに、右脇腹に茶色いハートの模様がプリントされていた。
 目はとてもきれいなブルーだ。
 小さな、小さな、体全体を使って、一生懸命ゴロゴロのどを鳴らし、私の足にスリスリと体を寄せてくる。
 ━何度も…。
 ━何度も…。
 私は仔猫の頭を撫で
 「帰るとこないの?」
 と話しかける。


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