甘い涙

 「こんにちは。」
 泣き疲れ、いつしか眠ってしまったらしい。
 「こんにちは、鈴木さん。
 鈴木 めいさん。」
 誰だ?
 のろのろと起き上がると、玄関の扉を開けた。
 そこには、髪はボサボサ、不精ヒゲにヨレヨレのスーツを着、大きな分厚いカバンを持ったおじさんが立っていた。
 ━怪しい。
 何かめっちゃ怪しすぎる。
 私の頭の中を〝インチキ訪問販売〝という言葉がぐるぐる駆け回っていた。
 不信感いっぱいの私などお構いなしで、おじさんは、ヨレたスーツから名刺を取り出した。
 「弁護士の笠松 吾郎と言います。
 鈴木めいさんですね。」
 と飄々と尋ねた。
 ━弁護士…?
 おじさん…笠松さんのスーツには確かに、弁護士のバッジがかろうじて引っ掛かっていた。
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