明日が欲しい




『浩志,私の台詞の所どうやった?』


しまった!


今日行けれない事を彼女に言ってなかった。


と心の中で思いながらも,


『ウン!

なかなか良かったよ!

結構様になっとったで。

上達しとったなぁ。』


嘘である。


見てもいない事に対しての品評なんて難しすぎるぜ!とは思ったが,誤魔化すには誉めるが一番である。


『嘘つき!

あんた,ほんまにいい加減な事ばっか言いよるな!

あんたが来て無かった事うち知っとるんやさかい!

なんで嘘つくんねん?』


バレバレである!


知っとるんやったら聞くなちゅうねん!と思ったが,そんな事言えるわけ無いし,


『ゴメン!……』


それ以上何を言っても無駄だと言う事は知っている。


関西人の機関銃攻撃にかなう訳無いし,下手な言い訳はかえって逆上さすだけである。


しかし,これがきっかけで喧嘩は続き終いには,


『浩は、何時も適当な事ばかり言うて,何時も逃げて,誤魔化して,嘘言うて,うちと向かいおうて真面目に話しせえへんやんか!

そんなとこがめっちゃ腹立つねんて、前から言うてたやんか?

なんで判ってくれへんの?』


……ごもっともである。


しかし,僕はその当時、事勿れ主義で流されていたのを,自覚していながら改善する訳でもなく,情けない男であったのだ。


その為に、香織とはその日の口論の末、別れる事と成ってしまった。


向こうからの三行半状態である。


それから1週間後,彼女から電話が入った。


それは,この間の事で,僕が行けれなかった訳を、他の吹奏楽部員から偶然聞いて,謝りたいと行って来たのである。


最初から本当の事を言っておけばこんなに揉めなかっただろうに!と思う今日この頃である。


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