明日が欲しい
アッと言う間に6月が着た。
演劇部の晴れの舞台では在るが、香織は私と一緒に客席からの観覧である。
どうしても行きたいと駄々をこねた彼女に負けて,外出許可を貰ったのである。
まだ,免疫力がかなり低下しているので,感染症を引き起こす可能性があるから,気を付けてと言われていたが,それでも,2時間だけ外出が許された。
タクシーの乗り込み,暖かい服を着こんだ彼女と共に市の文化センターへ行った。
暫くして,
『ピーターパン』
が始まった。
香織は自分の台詞の処が来ると,いっしょに口ずさんでいた。
幕が閉じ,次の学校の演目紹介が始まったのを期に立ち上がった。
しかし,彼女は下を向いたまま立とうとせずに,ジッと座ったまんまであった。
『なぁ、帰るぞ。
早うせんかったらいかんが!』
よく見ると,彼女の手の上にいくつもの涙の為に濡れていた。
私はその時、始めて悔しそうな香織の顔を見た。
ポケットからタオル地のハンカチを出して香織に渡し,もう暫くいる事にした。
それから30分ほどしてようやく彼女が私の手を掴み立ち上がった。
私は彼女の腰に手を回して支えながらセンターを後にした。