天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
さやかを前にして、幾多流は自嘲気味に笑うと、伝えてほしい言葉だけを話した。

「僕は、異世界に戻るよ。この世界は、一応救われたみたいだからね。その代わり…すべての災厄が向こうの世界に、移動した」

そこまで言うと、幾多は唐突に、話を中断し、さやかに背を向けた。

「あ、あのお」

さやかはすぐに、幾多の背中に声をかけた。

噂に聞く連続殺人犯としての殺気も、狂気も…感じることはなかった。

それは、そうであろう。

幾多流が捕まらない要因の一つに、そこがあった。

普段の彼の笑顔は、無垢であり…仕草や態度に迷いがなかった。

ブルーワールドで生まれたさやかにとって、殺人者とはある種…滅多にいない特殊存在であった。

魔物という圧倒的な捕食者がいる為に、殺人事件は少なかった。

決闘での命のやり取りは、あるが…ブルーワールドで殺人事件と言われるのは、見殺しが多かった。

仲間を置いて逃げるや、自分が狙われていたのを、相手にすり替えることなどを指した。

しかし、自らの命も危険だった場合、逃げるのは仕方がないと、最近はブルーワールドでもあまり裁かなくなっていた。



「何?」

屈託のない笑顔で振り向かれた瞬間、さやかは言葉を失った。

数秒待った後、幾多は頭を下げると、再び前を向き歩き出した。




「あいつが!」

高坂は、銃を握り締めた。

「いた!だけど、ブルーワールドに戻った」

高坂の震えは、全身にも及び…感情をセーブできていなかった。

「お、俺も!ブルーワールドに戻るぞ」

高坂は、新たな誓いを立てた。

「部長!」

「ゲッ!さやか」

緑と輝が、2人に駆けよってきた。

なのに、自分を見て、足を止めた輝を、空気を変える為、さやかは捕まえ、首を締めた。

「如月先輩だろうが!」

そんな中、緑は高坂のいつもと違う雰囲気を感じで、近寄るのを止めた。

「部長…」

小刻みに震える高坂の後ろ姿を、見つめることしかできなかった。



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