天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
数秒だが、静寂の時が流れる。

真琴は息を飲むと、自分にとってたまらない匂いが漂うコーヒーカップ内を見下ろし、

「そ、そうだな。頂こう!」

震える手で、カップを掴もうとした。

なぜ…手が震えているのか…真琴にはわからなかった。

いや…震えていることすら、わからなかったのかもしれない。

今度は唾を飲み込み、カップを掴もうとした時――輝が後ろから、真琴の腕を掴んだ。

「帰りましょう。部長」

「え」

腕をぎゅっと掴まれた感覚が、呆けたような状態になっていた真琴の感覚を元に戻した。

「ここに、彼らはいません。他をあたりましょう」

輝は、後ろから感じる殺気よりも、カウンターで微笑むマスターの穏やかさに、恐怖を覚えた。

しかし、怯んではいけなかった。

「…」

何も言わないマスターと、静かに目があった。

(く!)

輝は心の中で、顔をしかめた。

しかし、目を逸らす訳にはいかなかった。

だから、終わらす方法を取った。

「御馳走様でした」

カウンターに、コーヒー代を置くと、輝は扉に向かう為に、マスターから視線を外した。

「お代は、結構ですが…」

マスターがそう言ったが、もう輝の耳には届いていなかった。その場から、立ち去ることが優先であった。

「もったいないぞ!」

コーヒーに手を伸ばそうとする真琴を強引に引っ張って、輝は扉に向かって歩き出す。

「失礼しました!」

手を伸ばし、何とか開けると、外に出た。

「犬上!」

真琴が文句を言っているが、構っている場合ではない。

人混みに入るまで、振り返ることなく、輝は真琴を引っ張って歩き続けた。

「どういうつもりだ!部長の言うことをきかずに!」

周りに人が増えてくると、やっと足を止めた輝の手を、真琴は振り払った。

「捜査の邪魔になる!き、貴様は!首だ!」

少しヒステリックに叫びと、真琴はびしっと輝を指差した。

「とっとと帰れ!」

そして、再び喫茶店に戻ろうとする真琴の肩を、輝は掴んだ。
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