天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
「ご馳走様です」

高坂は、カウンターから立ち上がった。

「おいくらですか?」

財布を取り出すと、マスターを見上げた。

「え?ぶ、部長さん?」

店を出ようとする高坂に、姫百合はカップを持ちながら、困惑した。

「お代は別に…」

拒否しょうとするマスターに、高坂は言った。

「私は、普通のお客として、またここに来たい。ですので、コーヒー代を払う義務があります」

真っ直ぐ見つめる高坂の目に、マスターはゆっくりと頭を下げた。

「かしこまりました。本日のお会計は」

結局、マスターは一杯目の料金は取らなかった。

会計を済まし、店を出ていく高坂の後ろに、仕方なく続く姫百合。

そんな姫百合に、マスターは声をかけた。

「いつでも来て下さい。お待ち申しております」

「あっ!はい」

足を止めた姫百合は振り向き、頭を下げた。

「特に…落ち込んだ時には、是非とも」


最後のマスターの言葉を聞き、高坂は扉を開ける途中で、手を止めた。

「わかりました!確かに、ここのコーヒーを飲んだら、元気になります」

姫百合は、笑顔をマスターに向けた。

「…」

高坂は再びゆっくりと、扉を開けた。

そして、姫百合を外に出した後、扉を閉めた。

完全に閉まるまで、頭を下げ続けるマスターを見て、高坂も頭を下げた。

「あのお〜」

ドアを閉めた高坂の背中に、姫百合は恐る恐る声をかけた。

「歩きながら、話しましょう」

姫百合の言いたいことはわかっていたので、高坂は促しながら歩き出した。

少し歩いただけで、振り返るともう店は見えなくなっていた。

「部長さん?」

姫百合が振り返ると、彼女の目には店が映った。

高坂はちらっと、姫百合の横顔を見た後、前を向き、話し出した。

「あそこは、単なる憩いの場所ですよ。もしくは…避難所」

「避難所?」

「ええ」

高坂は頷き、

「恐らく、行方不明になった生徒は、ここにすがるように迷い込んだ。無意識だとしても…。そして、真実を知った」

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