天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
「これは、俺の罪だ!だけど…」

レーンはさらに、抱き締めた。

「失いたくない」

「レーン様」

雪菜は、レーンの腕の中で、目を閉じた。

「雪菜」

雪菜の名は、口にしたが、もう1人の名は口にしなかった。

(レダ…)

その名だけは、雪菜の前では出せなかった。





「ご苦労だったね」

兵士からの報告書を受け取ったディーンは、直ぐ様…目を閉じた。

「しかし…ヤーン様、亡き後…計画は」

兵士はため息とともに、悔しそうに顔をしかめた。

ディーンはゆっくりと目を開けると、微笑を浮かべ、

「計画に問題は、ない。最終調整まで来ていたからな。ヤーンがいなくても、計画は遂行できる」

兵士を見つめた。

「そ、そうでありますか!」

ディーンの言葉に、兵士は顔を上げると、笑顔になった。

「心配することはないよ」

「は!」

敬礼し出ていく兵士を、笑顔で見送ったディーンは、すぐに眉を潜めた。

「まったく…面白い兄弟だね。一番上の兄は、天使。真ん中は、闇を抱えた人間。そして、最後の1人は…天使を抱いた咎人…ククク…」

嬉しそうな含み笑いが、背中からした。

ディーンは振り返ることなく、虚空を睨みながら、笑い主の名を呼んだ。

「悪趣味だな。ジャスティス」

「そうかな?」

いつのまにか、ディーンの前に、太陽と交戦した天使が立っていた。

「単純に、面白い!だから、興味を持っただけなのにさ」

へらへら笑うジャスティスを見て、ディーンは椅子から立ち上がった。

そして、ジャスティスを見ることなく、机の向こうから、扉の方に歩き出した。

「?」

ジャスティスは首を傾げ、ディーンの背中を見た。

「…」

ディーンは、扉の上にある絵を見上げた。

そこには、天使と悪魔の戦いが描かれていた。

「向こうの世界の絵画だね」

ジャスティスも絵を見た。

そして、にやりと笑った。
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