引っ込み思案な恋心。-2nd








「…ここに座ってくれる?」



「うん……」






すっかり人気がなくなった中庭の片隅のベンチの前で、ようやく松沢さんが私の腕から手を離してくれた。





ものすごい力で掴まれていたみたいで、掴まれていた箇所を見ると、赤くなっていた。





松沢さんに促されるまま、私はベンチの中ほどに座った松沢さんの左横に腰を下ろした。








「…前に私、言ったよね?あなたと瀬川は釣り合わないんだって」



「え…?」






中庭に生い茂る木々が、夕方の涼しい風に乗ってゆっくり揺れる。





松沢さんは私の顔を見ないで、その木々の動きを見つめながら言った。






「新学期になったら驚いたでしょ?あのウワサ……、絶対耳に入ってると思うけど、みんな瀬川と私の方がお似合いだって思ってる」






『あのウワサ』…とは、夏休みの勉強会の時にななっぺが言っていたウワサのこと。






夏休み中…陸上部の合宿の時、松沢さんは拓に告白した。





だけど私という彼女がいる拓に、もちろん振られてしまって…。






新学期になり一気にそれがウワサ話として広がっていった。






『何で瀬川は松沢じゃなくて杉田を選んでるんだ?』






という、みんなの感想と共に……。





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