すれ違い恋愛
あの、子?
ドクンッドクンッ
体が勝手に彼女のもとに動き出す。
吉高の背中で隠れている彼女の顔を見ようと、思わず吉高の肩を後ろに押した。
と。
櫻井さんと目がぱっちり合う。
「……。」
ああ、やっぱり。
『なにすんだよ、千早ー』
後ろから聞こえる吉高の声を無視し、彼女の手首を掴んで立ち上がらせる。
そのまま走って教室を飛び出すと、廊下にいた奴らが好奇心の目で見てきた。
たしかに。
今までの俺なら、変な噂が立つのを誰よりも嫌っていたはずだから。
女の手首を掴んで走るなんて、ありえないことで。
好奇心で見られるのも、仕方がないのかも知れない。
仕方がない、と思えるのは。
きっと本能的に体が動いてしまうからなんだと思う。