オカシナふたり
 だが、昨夜の会話でもトモカは無理矢理には自分の名前を聞きだそうとはせず、こうやってほぼ丸一日たった現在においても自分を家に無理に帰そうとは思ってはいないように少年には感じられた。

 まだ少年はトモカの『脳天気な性格』を完全に把握しているわけでは無かったが――それに近い空気はすでに掴み取っていたのだろう。
 それに今日一日、トモカの部屋で生活していたことが少年にこの部屋の主であるトモカへの不思議な信頼感を生み出していた。

「……カヅキ。 です……」

 自分の名前を初めて口にした少年の一言がこの部屋をほんの僅かな間だけ支配していた緊張感を押し流した。

 カヅキがしたこの自己紹介、トモカにとってはかなり嬉しい行動だった。
 それまでのカヅキが自分に向けて抱いていた警戒心が一気に解けた……そんな気分になれたのだ。
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