僕のミューズ
二人目の彼女が裾に消えて一瞬間が空き、彼女が、姿を現した。
ごくんと唾を飲む。
冷や汗がこめかみを伝った。
ラベンダー色のワンピース。
ヒールのある靴には、黄色い大きな花が咲いている。
彼女が歩く度、花から、花びらが散る。
俺は、さっきとは違う意味で、唾を飲み込んだ。
きらびやかな笑顔はない。
ただ真っ直ぐに、前を見据えた黒目がちの瞳。
さっきより随分濃いメイクが、ラベンダーの淡さによく映えている。
長い黒髪はアップにまとめて、ヒールと同じ、大きな黄色い花を咲かせていた。
一歩一歩、着実に前へ進む。
その度、黄色い花びらが舞う。
さっきまでの黄色い歓声は、徐々に収まっていた。
会場の皆、その完璧なランウェイに見とれていたのだ。
そう。
彼女は完璧に歩いた。
ステージの端まで歩き、ポーズを決める。
少し右足を前に出し、腰に手を当てる。
そのポーズこそぎこちなかったものの、それを掻き消してしまう程のオーラが今の彼女には、あった。
ポーズを取った瞬間、無表情だった彼女に表情が現れる。