僕のミューズ
「…あかり?」
細いくびれとたわわな胸を強調させる様な黒い水着姿。
長い髪をいつもと違い頭のてっぺんで無造作にお団子にしているが、その顔はまがいもなく、あのあかりだった。
「ちょ、久しぶりー!びっくりしたぁ!元気ぃ?」
その甲高い声を聞いていると、否応なしに思い出す。
あの日のファッションショー。
気だるい電話からの声。
無責任な、モデルの放棄。
彼女は、芹梨の前にあのファッションショーのモデルをする予定だった女だ。
「遥さぁ、あれから全然連絡も取れなくなっちゃったから、どうしようかって…」
「行こ」
俺は芹梨の腕を掴んで立ち上がる。
あの日、ショーが終わって俺はすぐにあかりの番号を消したのだ。
それと同時に、俺達は終わった。
もう無関係だ。
「ちょっと遥、待ってよ!」
芹梨を掴んだ腕と逆の腕を掴まれる。
あかりはその大きな目で俺を真っ直ぐ見つめていた。
「ごめんって。あの日のショー、怒ってるんでしょ?ほんと、あれはあたし反省してるし、だから…」
「もう関係ねぇよ」
「待ってってば!」