僕のミューズ
一文字に結んでいた唇が緩み、ゆっくりと小さな弧を描く。
目元も同時に優しくなり、チークの映える白い頬には、小さなえくぼが現れた。
…その瞬間、俺は、ショーの事を全て忘れていた。
音楽も、ライトも、歓声も、何もない。
俺はただ、彼女に、見とれた。
はっと我に返った時には、彼女のランウェイは終盤で、黄色い女の子達の歓声がよみがえっていた。
彼女が裾に消えた瞬間、最後の黄色い花びらが舞う。
ひらりとそれが床に落ち、彼女のステージが終わった。
俺はずるっとその場にしゃがみこむ。
高鳴る心臓は、このフロアに満ちている音楽よりはるかに大きく聞こえる。
…誰だよ、不安だとか言った奴。
俺は左手を口元に当てて、とにかく冷静さを保とうとした。
宝物なんかの騒ぎじゃない。
俺は、もっと凄い何かを見つけてしまったらしい。
しばらくそこにしゃがんだまま、俺はただ、心臓の音が落ち着くのを待った。