僕のミューズ

「じゃあ、おあいこね!」
「それでいいよ。じゃあな」
「待ってよ」

何でもいいからこの話を終わらせたかった。が、あかりはそうさせてくれない。

服を掴んでいた手は、俺の腕に回される。

「…何」
「ね、もう一回やり直そうよ」

上目遣いでそう呟く。


…何言ってんだ、この女は。


「やり直す気はねぇよ」
「何で?彼女いないんでしょ?」
「関係ね…」
「あの子?」

あかりの言葉に、明らかに固まってしまう俺。

あかりの言う『あの子』が、誰を指すかはわかっていた。


「…好きなんだ」
「関係ねぇ」


力ずくであかりの手を払い、俺は歩き出した。

「遥!」

そんな俺を追いかけることはせず、あかりはその場から俺の背中に向かって叫ぶ。


「遥のショーのモデル、あたしやりたいから」


思わず立ち止まりそうになった。

…ショーをすっぽかしたモデルを誰がもう一度使うかよ。

そう思ったが、これ以上あかりと話していたくなかったから、そのまま足を進める。
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