僕のミューズ
あかりはそれ以上は何も言わなかった。
背中に反対側に歩いて行くあかりのヒールの音を聞く。
もやがかかった気持ちが、夏の暑さに混じって気分が悪い。
軽く舌打ちをして、煙草を取り出した。
俺のショーのモデルをやりたいと言ったあかり。
一番やって欲しい俺のミューズからは、まだ一言も聞いていないその台詞。
苛立ちなのか焦燥なのかわからない気持ちを抱えたまま、ただ今は、芹梨に会いたかった。
芹梨の笑顔を見たらただ安心する様な気が、そんな気がしていた。