僕のミューズ
……………
その日、バイトが始まる前に俺は一通のメールを芹梨に送った。
『今日9時頃、いつものスタバで会える?』
突然こういうメールを送った事はないのだが、今日はどうしても、芹梨に会いたかった。
そんな俺の気持ちを読み取ったのか、バイトが終わり携帯を見ると、一通のメールが届いていた。
『いいよ。待ってる』
そのメールを見た瞬間、俺は携帯を閉じてロッカールームを駆け出した。
…走ったからか、いつもかかる時間の半分でスタバに着いた。
まだ着いていないかと思ったが、テラスに見覚えのある横顔を見つけ、ほっと息を吐く。
いつものキャラメルマキアートを飲みながら、文庫本を読む芹梨。
文庫本にはお気に入りのカバーがかかっていたから、恐らく好きな小説を読んでいるのだろう。
俺は呼吸を整えて、芹梨の座る席へ近付いた。
かたんと椅子を引く。
勿論その音に反応したわけではないが、顔を上げた芹梨と視線がかち合った。
久しぶりに見るその瞳に、ふっと安堵の色が見える。
それが、俺を更に安心させた。