僕のミューズ
俺は立ち上がり、その拍子に芹梨も顔を上げる。
確かに不安を見て取ったが、俺は手話をせずに言った。
「わかった。いいよ、もう」
そのまま鞄を取り、席を後にする。
後ろで芹梨が立ち上がった気がしたが、俺は構わず歩き出した。
我ながら大人げない態度だと思う。
モデルを断られたからと言って、この態度はないのかもしれない。
でも俺にとって、モデルを断られると言うことは、俺の気持ちを断られるも同然だったのだ。
芹梨は、俺にとってのミューズだ。
必要不可欠な存在。
彼女がいるから、俺の中から生まれるものがある。
彼女が着てくれて、完成する作品。
それを拒まれるということは、どうしても俺自身を拒まれるという事と感じてしまう。
芹梨は、俺にとってはミューズだ。
それを芹梨もわかってくれているのだと、勝手に思い込んでいた。
思い込みでない事を、今日確かめたかったのかもしれない。
でもそれは、やっぱり俺の一方通行。
それを思い知らされた気が、した。